次世代通信プラットフォーム「High Altitude Platform Station(HAPS)」が変える通信インフラの未来

2025年11月4日
次世代通信プラットフォーム「High Altitude Platform Station(HAPS)」が変える通信インフラの未来

通信インフラはいま、かつてない転換期を迎えています。
これまで、私たちの社会を支えてきたのは「地上の基地局」と「宇宙の衛星」。しかしその“間”、つまり成層圏の高度約20kmという空域に、新たな通信レイヤーが現実のものとなりつつあります。

それが次世代の通信プラットフォーム「HAPS(High Altitude Platform Station)」です。 HAPSは、成層圏に浮かぶ無人航空機を基地局として活用し、上空から広範囲に通信ネットワークを提供するという革新的なシステム。地上インフラが届かない山間部や離島、災害時の通信断絶エリアをカバーできるほか、今後拡大が見込まれるドローンや自動運転など“空のモビリティ社会”の基盤としても期待されています。

すでに日本国内でも大手通信事業者が本格的な実証・事業化に向けた動きを加速しており、HAPSは「未来の通信インフラ」の現実解となりつつあります。

本記事では、このHAPSの仕組みや背景、企業が得られるメリット・留意点、そして今後の活用可能性について詳しく解説します。

【参考】
https://www.softbank.jp/corp/philosophy/technology/special/ntn-solution/haps/
https://www.sbbit.jp/article/cont1/131888
https://journal.ntt.co.jp/article/19880
https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20250627_03

HAPSとは何か?――成層圏20 kmで展開する通信ネットワーク

近年、地球上の通信インフラにおいて「地上基地局+人工衛星」という構図に加えて、新たな“3次元”通信アーキテクチャが注目を集めています。その柱となるのが「HAPS(High Altitude Platform Station:高高度プラットフォームステーション)」です。

HAPSとは、例えるなら「空の基地局」――成層圏(おおよそ20 km前後の高度)に浮遊または巡航する無人航空機体(飛行機型、気球型、飛行艇型等)を通信プラットフォームとして活用し、広域かつ高品質な通信ネットワークを提供する技術です。
例えば、国内大手通信事業者の SoftBank Corp. は、2017年からHAPS技術の研究・開発に着手し、2026年には事前商用サービスを日本国内で開始する予定であると発表しています。

このように、通信・ネットワークを提供する企業、そしてそのネットワークを活用して製造/サービスを展開するメーカー・企業にとって、HAPSは「通信インフラのもう一つの選択肢」として検討すべきテーマとなってきています。

なぜ今、HAPSが注目されるのか?背景と通信インフラの変化

進化する通信環境と「3次元ネットワーク」へのニーズ

スマートフォン中心の通信から、IoT機器・ドローン・空中移動体(UAV, UAM)など“空の移動体”も含めた新たな通信時代に突入しています。
そうした中、「2次元(地上)」で展開されてきた従来ネットワークだけでは対応が難しいという認識が広がっています。実際、SoftBankも「地上ネットワーク+非地上ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)」への注力を宣言しており、HAPSはその中核技術として位置づけられています。

また、人工衛星通信(特にLEO衛星)では、地上からの距離・軌道制御/地上端末の特殊対応・遅延などの課題も残されており、HAPSは“衛星と地上基地局の中間”として「低遅延・大容量・柔軟展開」を実現する可能性を持つ点がメリットとされています。

災害・未整備地域での活用価値

日本を含め、地震・津波・豪雨・台風などの災害によって通信インフラが被害を受けるリスクが高い国・地域では、早期の通信復旧手段が社会インフラとして重要です。
HAPSはその解決手段の一つとして、被災地や離島・山間部の“最後の1マイル”を補完する技術として注目されています。

例えば、SoftBankが発表した報道では、HAPS導入によって「大規模災害時に地上ネットワークが寸断された場合の通信復旧」と「山間部・離島など通信インフラ未整備地域への提供」を見込んでいます。

メーカー・企業にとってのメリット

メーカーや企業の視点から見れば、HAPSは以下のような利点をもたらします。

メリット ①:未整備地域/難所対応における通信確保

地上通信インフラの敷設が困難な地域(山間地・離島・広大な農地など)では、HAPSを活用することで“地上基地局を新たに大量設置せずとも”通信カバーを実現可能です。
これにより、物流・自動化・IoT機器接続・遠隔監視などの事業を展開しやすくなります。例えば農機メーカーが山間農地にセンサーを多数設置する、設備メーカーが遠隔地施設での状態監視を行う、といった用途で有効です。

また、災害復旧時やネットワーク被害発生時に、HAPSが臨時基地局として機能すれば、企業の継続性(BCP:事業継続計画)を支える重要な通信手段となりえます。

メリット ②:空中移動端末・ドローン等との連携強化

将来「空の移動体」が通信・物流・監視のインフラとして本格化すると、ドローン・UAV・都市空間移動(UAM)などの通信需要が飛躍的に増加する見通しです。HAPSは高度20 km付近からの「空中/地上」をつなぐ通信プラットフォームとして、これら3次元モビリティの土台になり得ます。
実際、SoftBankも「ドローン・UAV等の通信を支える3Dネットワーク」としてHAPSを掲げています。
このため、機械メーカー・自動車関連企業・ロボティクス企業にとって、HAPS網を使った通信モデルの検討・準備を早期に行う価値があります。

メリット ③:低遅延・高容量通信の実現可能性

HAPSは衛星通信と比べ、地上に比較的近く(約20 km)、電波経路・遅延・損失が少ないため、リアルタイム性が求められる通信用途に適しています。
たとえば製造現場のリアルタイムモニタリング・AR/VR支援・遠隔操縦などで活用できる可能性があります。
SoftBankも「衛星を上回る速度・容量・遅延特性」をHAPSの強みとしてあげています。

メーカー・企業にとってのデメリット・留意点

もちろん、HAPSを導入・活用するにあたっては、以下のような課題・リスクもあります。

デメリット ①:実商用化の道程・先行投資リスク

現在、HAPSは“次世代の通信インフラ”として計画段階・実証段階にあります。例えば、SoftBankは2026年の「事前商用サービス開始」を計画しており、完全商用化・量産展開までは一定のタイムラグがあります。
つまり、企業がHAPSをベースに事業を構築しようとする場合、早期に動くことは優位ですが、制度・技術・運用面の不確実性(法制度・空域運用・機体安定運用など)を踏まえてリスクを理解しておく必要があります。

デメリット ②:法制度・空域・周波数の課題

HAPSが飛行・滞空する成層圏の空域では、航空法・無人航空機運用規制、気象影響、航空交通との調整など、地上基地局とは異なる運用ルールがあります。SoftBankも制度整備に積極関与しており、参入企業・利用企業としてもその動きを注視する必要があります。

また、地上基地局・衛星・HAPSが同じ周波数帯を使う可能性があるため、干渉対策や周波数管理も重要です。実証では「ヌルフォーミング技術」による干渉抑制の検証も行われていますが、一般利用まで普及・運用が安定するには時間を要する可能性があります。

デメリット ③:コスト・運用設計の検討

HAPS機体・ペイロード・通信機器・維持管理・運用体制など、地上基地局とは異なるコスト構造を持ちます。
さらに、滞空維持・機体メンテナンス・天候リスク・地上との連携設備(地上局・バックホール)など、運用設計における検討項目が多いです。
企業が早期にHAPSを活用する際には、こうしたコスト要因・オペレーション設計を慎重に評価する必要があります。

まとめ:HAPS活用は「通信インフラ選択肢の拡張」

HAPS(高高度プラットフォームステーション)は、成層圏20 km付近を舞台にした「地上と衛星の中間に位置する通信インフラ」であり、未整備地域・災害時代替・次世代モビリティ(ドローン/UAV)という観点で、企業にとって大きな可能性を秘めた技術です。
一方で、商用化のタイミング、法制度・運用体制・コスト構造など、検討すべき課題も明確に存在します。
従って、メーカー・企業としては「既存の通信手段に加えて、HAPSという選択肢を早期に検討・準備しておく」ことが、将来的な競争力を確保するうえで重要だと言えます。
もし、貴社が「広域/難所/災害対応」などの観点で通信ネットワークを再検討されているのであれば、地上+衛星に加えてHAPSという第三のインフラ層を視野に入れることをお勧めします。
そして、その具体的なステップとして、地域特性や用途に応じた通信ソリューションの導入・検証を行うことが重要です。

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本記事では、次世代通信プラットフォームとして注目されるHAPSの基本概念、背景、企業にとってのメリット・デメリット、導入に向けたステップをご紹介しました。
通信インフラをただ受け入れるのではなく、自社事業に適した「選択肢の拡張」としてHAPSを組み込むことで、競争優位性や事業継続性を高めることが可能です。
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